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第18話 天使

Auteur: 青砥尭杜
last update Date de publication: 2025-02-10 22:18:04

「僕はちょっと手配してくるから、カイト君はその本でも読んで待っててくれるかな」

 エルヴァの指示に従うことは、無自覚ながら既にカイトにとって自然な反応となっていた。

「はい。分かりました」

 カイトは自然な反応として素直にうなずいた。

 エルヴァが軽い足取りで執務室を出て行くと、未だ夏の気配を残す白昼の日差しが射し込む明るい執務室に一人残されたカイトは、エルヴァの指示に従っていると自覚することもなく禁書を手に取ってページをめくった。

 アルケーの次は、エクスシーアという天使が記されたページだった。

 黄金色の甲冑に緋色のマントを身に纏い、背中には白い翼。その姿を伝える細密な具象画を見て、カイトは勇ましい姿の天使だと思った。

 アルケーの時と同じように、エクスシーアを説明する文が脳にじわりと染み込んでいくような感覚があった。

 ゾーンに入ったときの勉強、集中して暗記科目を勉強している時の感覚に近いが、さらに速く深く染み込んでいく感覚は不思議とカイトにとって気分がよいものだった。

 エクスシーアの次は、デュナメイスという天使が記されたページだった。

 金色の甲冑を身に纏い背中には大きな白い翼。長い槍を持っている。

 デュナメイスのページもすらすらと読み終えて、カイトはページをめくった。

 デュナメイスの次は、キュリオテテスという天使が記されたページだった。

 漆黒のローブを身に纏い、左手に王笏……というより魔法少女が持つ魔法ステッキに近いとカイトが思った杖を持っている。

 背中に白い翼があるのはアルケー、エクスシーア、デュナメイスと同様だったが、甲冑ではなくローブを身に纏っていることもあって、どこか兵士の印象を含んでいる今までの天使とは毛色が変わったようにカイトは感じた。

 キュリオテテスを説明する文もすんなり読み終えたカイトが、次のページをめくろうとしたとき執務室にエルヴァが戻ってきた。

「お待たせ。じゃあ、行こうか。禁書は持ってきて」

「はい」

 素直に応じたカイトは禁書を左手に持ち、エルヴァと一緒に執務室を出た。

 王宮の左翼に当たる棟から出ると、馬車なら五輛が並んでも余裕がある広い車寄せに、屋根付きの豪奢な二頭立ての四輪馬車とエルヴァの秘書だという初老の男性が待機していた。

 カイトとエルヴァを乗せた馬車は、王都プログレの目抜き通りを優雅に進んだ。

 馬車の乗り心地はカイトが想像したよりも格段に良かった。

 車窓から見える街並みは異世界ファンタジーのお約束である中世のヨーロッパ風、ではなかった。

 カイトから見れば古めかしくはあったが、近世あるいは近代といった趣の街並みだった。

 大きな街であることは一見してカイトにも分かった。どこか映画のセットを思わせる街の景観をカイトは飽きずに眺めた。

 ミズガルズ王国の王都プログレは、セナート帝国とブリタンニア連合王国という覇権国家の侵攻におびえているような空気を全く帯びることなく活気に満ちており、行き交う人々の表情も一様に明るいとカイトには感じられた。

 ときおり子供たちがカイトを乗せた馬車に指を差して歓声を上げる姿が見られた。

 それだけ立派な馬車なんだろうと思ったカイトは、この世界での魔道士という存在の地位の高さを垣間見たような気がした。

 カイトとエルヴァを乗せた馬車は王都の街並みを抜け、郊外の牧草地と思われる草原で停まった。

「着いたよ。降りようか」

 エルヴァが軽い調子で促しながら馬車を降りるのに続いて、カイトも馬車を降りた。

 気持ちの良い初秋の風がカイトの頬をふわりと撫でる。

「この草原はカイト君のためにサイオン領として用意された土地だよ。領地については聞いてる?」

 エルヴァの口から「サイオン領」という固有名詞を聞いたカイトは、マジェスタが言っていた自分の爵位を思い出した。

「はい、聞いてます。ここが、サイオン領なんですか……」

「と言っても、ここはサイオン領の一部で飛び地なんだけどね。まあ領地の説明なんかはマジェスタ殿に任せるとして、ここなら問題ないだろう。早速だけど、カイト君。さっきの召喚をもう一度やってみてもらえる?」

「あ、はい。じゃあ、やってみます……」

 素直に応じたカイトは、深呼吸するとエルヴァの執務室での感覚を思い出しながら意識を集中してみた。

 体内を巡る微弱な電流のような魔力を意識できたカイトは、その魔力の流れを脳内で思い描いたアルケーのイメージと重ねた。

「アルケー……」

 天使の名をカイトが小さく発声する。

 その声に呼応するようにカイトの前方三メートルほどの位置に、玉虫色に発光する直径二メートルほどの魔法陣が現れた。

 地面から二十センチほど浮いている魔法陣から、アルケーがその姿を現わす。

 身長は二メートルほどで鈍色の鉄に見える甲冑を身に着けており、右手には輝く長剣を握っているアルケーの背中には、その羽の一枚一枚が光を帯びているようにも見える純白に輝く翼があった。

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